ひよこ日記 第21節
96、人形練習
女の子なので人形遊びは割と好きだったけれど、まさか自分が本気で人形にさせられるとは思っていなかった。裸教育のせいで、意外性のあることばかりの人生になっていく気がした。小発表会でも、まさか幼児からは6年以上も成長してる自分が幼児と全く同様の全裸でバスターミナル横の空き地で幼児と同様の(むしろ、空き地で踊ってた幼児より、踊りが幼稚っぽいと思う)発表をさせられるとは思わなかった。それに運土会でも、これが信じられないことだけれど、女の子なのに全裸で運動会させられるとは思ってもいなかった。もっとも、1年前は全校の女子全員がブルマ1枚で運動会だったので、ブルマ1枚の裸の写真も見物人から撮影されたし、それは案外≪こどもだから普通かな…≫とも思っていたので、違いはブルマの小さく薄い布1枚の違いだけなのかもしれないけれど。でも、去年は普通な気が案外してたのに、今年は異常なくらい赤面な姿にされたような気がしたのは、やはり考えすぎなのかもしれないと運動会後に思った。幼児が丸見えで運動会しても普通なように、ぼくの性器も幼児と形も大きさも(縮み上がってて)大差ないのだから、別に丸見えで運動会してても、普通のことにすぎないのであって、自分がませてるから≪赤面≫と思っただけで、実は周囲の反応も幼児の全裸を見てる時の反応と何等変わりないものだった。でも、それが普通か異常かは別にしても、自分の想像を超えたような、意外性のある人生になってるのは間違いないと思った。≪まさか、ここまでは、させられないだろう…≫とか、≪まさか、そんなの先生の口先だけだろう…≫と思ってるようなことを、実際に真っ裸の体でさせられてきた。もっとも、想像通りのことを裸教育でさせられるだけでは、到底、強い子には成長しないから、想像以上に大変なことをさせられるのは理屈としては分からないことでもないのだが。でも生身でさせられてるこどもにとっては、恥ずかしかったり、大変だったりした。繰り返すことで恥ずかしさが不感症みたいになると思われがちだが、そんなことは全くなく、慣れてしまって平気になることもあるけれど、根本的な部分の恥ずかしさは決してなくなるものでなく、平気で真っ裸になってるというよりは、強い子に成長してるから我慢できてるだけだと思う。きょうは、部活まで時間があるので、色々これまでの部活について考えてみたが、どうやら今回の「人形になる」ということは、これまでの頑張ればなんとかなるとか、努力すれば身に着くとかいうよりは、持って生まれた演技力というか、才能の気がした。才能のないぼくには苦手なミッションだなという気がしていた。下手くそな子にまで負けるとは思わないけれど、とりあえず10人のうちの上位2人に入れるかというと、1人は白木が圧倒的なので、それを上回れるとは思えず、要するに1年生枠はたった1人だけなのだ。しかも苦手意識ができてしまってるし、白木みたいに気持ち悪いほど人形そのものになれそうにもなかった。美少女コンテストなら、大抵の子には負けない自信はあったんだけど、人形コンテストみたいなことをさせられたら、たまらないなあという気分もあった。白木は、今はダメだけど、こどもの丸見えの普通な昭和時代とかなら、全裸で人形の物真似をするだけで、≪これは面白い子だ≫と、プロデューサーの目にとまり、ワレメ丸出しのテレビ出演も可能だったと思う。昭和時代は普通にこどもがオチンチンやワレメを丸出しにしてテレビに映っていたという話で、それはランボだけでなく副顧問も似たような話をしてたので、多分本当なんだと思う。麻衣は平成生まれなので異常に感じてるだけで、昭和時代ならこどもの裸教育なんて普通すぎて当然なことだったのだろう。いずれにしても、今回ばかりは10人に選抜されたけれど、合格する気がしないので、選抜されたことを初めて≪あまり嬉しいことでないなあ…≫と思った。虚しい徒労のような練習させられて、結局は発表には結び付かず、徒労に終わるのかなという気がした。
「どうしらの? 元気ないのれすぅ」とボーっと半袖とブルマで黄昏れてる麻衣を見て、華子が声をかけてきた。
「だって、今回は人形の練習してるけれど、合格できる気がしないんだもん。それを、毎日練習させられると思うと、元気もなくなるよ」
「え、どうして合格できないと思うのらか?」
「どうしてって、ぼくの人形姿見たでしょ。ランボも全然人形に見えないと言ってたし、その一方、白木なんて人形に化けてしまったみたいで、どう見ても人間に見えないから、気持ち悪く思ったほどだったもん」
「なんだ、そんなことか。そりゃあ、白木は去年、練習をみっちりしてるから上手なんだよ。うちラは、まだ練習してないんだから、下手で当然だよ。そのために練習するんで、最初から出来るなら練習する必要ないもん」
「そうかな。練習しても、あんな風になれそうな気がしないよ。もし、白木を小学生とかに見せたら、半分以上のこどもが本物の機械仕掛けの人形だと勘違いすると思う。いや、人と思う子なんて、いないんじゃないかな」
「うん、確かにうまいのら。でも、白木って、もともと人形っぽいよね。体形も手足に膨らみがなくて棒みたいだし、痩せてるし、顔も部活で洗脳されてるせいか妙に従順そうだし、もともと似てるから猶更そんな風に見えるんだよ」
「理屈は分からないけど、実際に人形に見えてるもん。練習しても白木を超えられる気がしないよ」
「うーん、そっかあ…」と、さすがの能天気な華子も考え込んでしまった。どうすれば、ぼくが元気でるのか、一生懸命に思案してくれてるのは分かったけれど、出来そうにないものは仕方ないと思う。今回は華子の名案くらいで解決しそうもなかった。
「別に白木は超える必要ないのら。合格は2人なのら」
「でも、もう一人は原だよ。そりゃ、白木ほど上手でないけれど、練習なしで、あんなに人形そっくりなんだよ。ぼくが練習したとしても、原のレベルになれるかは疑問だよ。しかも、原も練習するんだもん。今よりは上達するのは間違いないし」
「ま、これまで目立ちすぎだし、伝説作り過ぎだし、オナペット用にされすぎだし、一度くらい他の女子に譲るのもいいかも。そもそも目立つのはカッコイイことかもしれないけれど、素っ裸で目立ってみたところで、男子とかにエッチな目で見られるのも事実なんだしさ」
「それもそうだね」
「そうなのら。たださ、練習から脱落したらカッコ悪いし、ランボの機嫌も損ねるし、つまらないから、合格しなくていいなら気楽だから、とりあえず脱落しない程度にみんなについていこうよ。それなら簡単だから、元気出るのら」
「あ、そうだね。そっか、脱落しないで頑張るくらいなら、一般の練習よりも体力いらないから出来そうだね」
「そうそう」と、ようやくぼくの様子に華子は安心したようだった。華子に励まされて、少し元気が出たところで部活時間となった。
体育館の入り口のざら板の所で服を脱ぎ、ブルマ1枚になって体育館に戻った。
集合して準備運動の後、別メニューの子以外は、「石になるメンタルトレーニング」をさせられていた。仰向けに寝て、額に小石を乗せて、小石と同化するという練習だった。簡単で楽そうだけれど、実は小石を取り除かれた後、先生に体や足や顔をスリッパで踏みつけられるので、小さな体の女子の上に大男の体重が加わるので、結構苦しいし残酷なトレーニングだった。重さや痛さは我慢できるけれど、物扱いされてるみたいで、あんまり人間扱いでないような気がしてしまうので、あまり好きなメンタルトレーニングではなかった。副顧問が担当してるメンタルトレーニングを見ながら、ランボが来るのを10人は正座をして待っていた。石になるメンタルトレーニングは、こどもがブルマ1枚で踏まれているので、残酷さ満点だった。
5分ほどしてランボが来て、「校長先生に呼ばれてるから、先にダンボール詰めの訓練をする」と言われた。全員がブルマを脱いで、きょうは時間がないということで、急いでガムテープで手足を固定され、口と目にもガムテープを貼られた。たかがガムテープと思われるかもしれないが、成人男性ならガムテープくらい自力で破れるのだろうが、女子中学生だとゴキブリホイホイにとらえられた虫と大差なく、ガムテープ程度の粘着力でも身動きできなくなる。もちろん何重にも巻かれてるせいもあるのだが、どんなに力んでも、破れる気も剥がれる気も全然しないのだ。動ける自由を10人全員が奪われるのには3分もかからなかったと思う。そのまま、小さいダンボール箱に押し込まれて、ガムテープで密封されてしまった。顧問の説明だと、ダンボール詰めにした後、誰が入ってるダンボールか分かるように、ダンボールの上にブルマを置くということだ。そうすると、ブルマに名前と性別が書いてあるので、メスの久保田麻衣が入れられてるとかいう風に分かるということだった。脱ぐときにブルマが小さいので、小さく丸まっているので、その丸まってるブルマを普通に戻してから、ダンボールの上に置いているということなんだろう。でも、ダンボール詰めにされてるので、ブルマが置かれてるかどうかは確認しようもなかった。小さな小さな10個のダンボールの上に、それぞれ1枚づつブルマが置かれてるのだから、≪ぼくたちって、惨めな子たちなのかな…≫とも思ったけれど、名前を見るためにブルマが置かれてるだけなのだから、そう割り切って我慢するしかないと思った。小さな子のお仕置きのようにダンボール詰めにされてるうえに、幼稚っぽいブルマをダンボールの上に置かれてるのだから、おしっこくさい子たちみたいで恥ずかしい気もするけれど、ダンボール詰めにされてるのだから、もう我慢するしかなかった。脱出はできないので、出してもらえるまで、我慢するだけだった。今日は、他の部(バスケットボール部)の男子も体育館を半分以上利用していたので、残り3分の1くらいの場所で練習していたのだが、男子にもダンボール詰めにされて、ブルマを乗せられてるのを、見られてしまったと思う。なんとなくだけど、女子体操部の様子を男子に見られてるのは分かった。石になるメンタルトレーニングが終了になると、一般の女子部員も他の部の男子も体育館で運動するので手狭になったらしく、ダンボールは移動させられた。空中に持たれて、移動させられてるのが分かった。移動後にいきなり乱暴にダンボールを床に落とされたみたいで、空中を落ちる感覚の後、強い衝撃が来て気絶しそうな感覚だった。その時点では10枚の子供ブルマは一か所に集められて、体育館の片隅に置かれていたらしい。脱いだブルマが集められて置かれてるのを男子に見られるのは恥ずかしい気がするのだが、ダンボール詰めにされてるので、これもどうすることもできないことだ。ダンボール詰めにされた女子は準備室に移動されたと思っていたら違っていた。どうやら体育倉庫の方らしい。平均台と跳び箱の間に空間があったので、そこに放り捨てられたようだ。外にいる時は女子部員だけど、中に入れられるとダンボール詰めにされたゴミと同じで邪魔なだけのようだ。だから、どこでもいいので邪魔にならない場所に置かれるだけだと分かった。何度もダンボール詰めになったが、ゴミ置き場に置かれて、本物のゴミに見える姿にされたこともある。でも中だと何も分からないので、どこでも同じことだし、邪魔になるよりは邪魔にならない方がいいので、それでいいと思った。ゴミのように女の子のダンボール詰めにされたダンボールが置いてあるのは、エッチで残酷そうと思うかもしれないけれど、中国などでは少女の箱詰めは普通の芸の一つで見世物にされてるというランボの話だった。麻衣たちの入れられるようダンボールでなくて、もっと小さな箱なので血管が圧迫されて死亡事故もあり危険だというころだ。それと比べると、ダンボール詰めは窮屈なだけで、危険もないし、見世物になってる訳でもなく、部員のためにしてることなので、ちっとも残酷でないという話だった。硬い箱と違い、ダンボール詰めだと箱が歪むので、致命的になるほど体が圧迫される心配はない、安全なトレーニングということだった。そのことの真偽は分からないが、少なくとも、もっと小さな自力では入れないような箱に、強引に押し込まれて、しかも硬い材質の箱だとすると、女の子にはかなり恐怖だなとは思った。それと比較すれば、やはりトレーニングの域を超えていないということかもしれない。やはり、≪えーっ、こんな小さな箱に入れられるの?≫と見物人が思うほど小さな箱でないなら見世物にはならないし、危険な見世物だから残酷で面白いのかもしれないが。でも、まあ、それと比べれば、エッチで残酷と思うのは、見た目だけの話で、現実には見世物でないのだからエッチでないし、危険もないのだから残酷でもないと言えると思う。
「人形がおもちゃ箱に入れられてるところを訓練でする。おもちゃ箱の中の人形の気持ちを理解するように」とミーティングで言われたけれど、窮屈なだけで、人形の気持ちは余り分からない気がした。でも、縛られて動けないので自力では出られず、箱から出してもらう時は、おもちゃ箱から出される人形になってる気がした。自力で動けない人形が、なされるままに箱から出されるのは、こんな気持ちなのかなあ、と、思った。
ダンボール詰め終了後は各自、人形化の練習をした。ぼくは下手なようで、ランボに「家の大きい鏡の前で、人形に見えるように鏡を見ながら練習しろ。そうすれば上達するから」と、アドバイスされた。部活だけでは合格できそうもないので、家で自主練をしろということなんだろう。「はい」と返事をして、それからは風呂上りに、裸のままで鏡の前で練習をした。鏡の前で練習をしてみると、どうすれば人形に見えるか鏡の前だと工夫できるのがいいと思った。でも、自分で鏡を見ても、あまりぼくは人形には見えないので、苦手意識はなかなか払拭できなかった。
その日の部活でも、練習中に一人づつ呼び出されて、先生の前で全裸ブリッジをしてから、全裸人形をさせられた。
「おっ、昨日よりは、うまいぞ」とランボに言われたので、≪えーっ、そうかなあ≫と少し嬉しかった。でも、まあ元が酷いので、だからどうなのというレベルなんだろうけれど。全員がブリッジと人形姿を顧問に見せ終わると、集合になり、演じてる最中に注意することを言われた。例えば咳をしないとか、おならしないとか、当たり前のことも言われた。全員がレベルが低いので、白木の物真似をさせるということを最後に言われた。
白木がみんなの前でランボの足に背中を凭れ掛かり人形姿になった。みんなは壁に凭れ掛かり白木の真似をした。そうすると驚いたことに、少しだけコツが分かったような気がした。何でもやってみないと分からないものだと思う。でも、ランボの足元で人形になりきってる白木は、やはり流石に上手だった。コツは分かったような気がしたけれど、あんな風になれてるとは到底思えないのだった。ランボの足元に1人、壁に9人、少女が変なことをさせられてるので、やはり男子の視線を感じた。小学校のころに裸は見られてるので、いまさら気にしてた訳でもないのだが、人形の間抜けなポーズを全員がさせられてるのは、やはり恥ずかしい気がした。
白木の物真似の後、今度は顧問がダンボール箱から本物の小さな(といっても30㎝くらいの大きさはありそうだったが)人形を取り出した。そして、白木の代わりに人形を足元に置いて、それを壁にいる10人の少女が真似をした(白木も壁側に移動していた)。
「もう一人、上手になったのがいるから、手本をしてもらう」と原が呼び出されていた。
今度はランボの足元で人形のかわりに原が人形化した。≪あれ、人形に見えるぞ!≫とぼくは少し驚いた。前回見たときは「人形に見える」と言うのは大袈裟で、人形っぽくは見えるけれど、どこか人間臭さも残ってる気がした。でも、今見てみると、人間には見えないと思った。白木のように本物の命のない人形に見えるというのとは違うけれど、それとは別の人形らしさがあり(人形に魔法で命が宿ってるかんじ)驚いた。原の横に人形が置かれると、2体の人形というかんじで、結構絵になるので驚いた。
「原、うまく人形になれてるぞ」と誉められると、「はい」と人形が急に返事したので驚いた。でも人形でなく人間なので返事しても当然なのだが、何故か驚いてしまった。それだけ上手ということなのだろう。≪やっぱり才能の世界なんだよ≫と再び思った。
「あと、ダメな例だ。こら、麻衣出てこい」と言われ、ぼくもランボの足元で人形になった。
「みんな、こいつ、人形に見えるか?」
「見えない」と言われ、首を横に振る子もいた。葵まで首を横に振っていた。
「お前も、白木や原も、メスなのも、お尻の穴からうんこして生きてるのも同じだ。同じなんだから、出来ないのは変だろ。お前は、うんこもしないで、メスでもなくて、別の生き物なのか? そうでないなら、出来るようになりなさい」
「はい」
みんなにダメと言われたうえに、顧問からお説教もされ、かなり元気をなくしてしまい、きょうの部活は終了した。半袖シャツを着て、「ふう」とため息をついた。元気なく部室まで歩いて、セーラー服に着替えた。
「たしかに白木や原と比べると、あまり人形らしくは見えない演技だったけど、でもハナや他の子とは似たようなものなのだ。2人がうますぎるだけなのら。だから落ち込むことないよ。ほら、ハナなんかも全然ダメだけど、気にしてないのラよ」
「うん、ラーちゃんありがとう」
セーラー服で華子と下校した。華子が能天気に笑ってるばかりなので、落ち込んでるのがくだらなく思えてきたので、≪どうせ、選ばれないし、どうでもいいや。脱落しなければ、それでいいや≫と思い直した。脱落しないならそれでいいと思っていても、実際に注意されてしまうと、落ち込むと思った。確かに、白木や原に肛門があるように、ぼくにも肛門あるんだし(つまり同じ原理で生きてるんだし)、メスなのも同じかもしれないけれど、でも才能に差があると思った。こんな、一見くだらないと思われることでも、実は才能の世界なのだと思う。
「じゃあね、ばーい」
「バイバーイ」と後ろを向いたまま手を振って華子は別れていった。分かれ道は寂しいと思った。特に華子のように無条件にぼくを応援してくれる子と別れるのは物寂しい。明日にすぐに会えるのだが、実際に物寂しい気分になるのだから仕方ないと思った。
「からーす、何故なくのー。からすは山にー」と歌いながら帰っていたら、通りすがりの人に笑われてしまった。
97、脱落しないだけを目標に!
昨日はランボに、『昨日よりは上手だが、人形には到底見えない』という評価をされた。ランボは人形度を、AからDの4段階で評価してると話していたので、D評価だったのが、C評価になったということだとうか。白木や原のようなA評価には程遠いにしても、下手くそな例として呼び出されるのは恥ずかしいと思った。でも、華子に『どうせ合格できないのだから、脱落しないことを目標にすればいいだけなのだ』と名案を得たので嬉しかった。高評価を得ようとか、合格しようとかするから、苦しいのであって、脱落しないでついていくことだけを目標とするなら、そんなに一般の練習やメンタルトレーニングと比べても大変ではないと思った。毎日ダンボール詰めにされるのは惨めだけど、メンタルトレーニングで水を大量に飲まされるのよりは遥かに楽だと思う。辛くて死にそうな気分でもダンボールからは出られないので、否応なく耐えるしかなく、自発的に耐えるよりは楽だと思う。吐きたくてたまらないのに、我慢して吐かない苦しさとか気持ち悪さと比べると楽だと思う。特に大量に噴水のように口から水が噴き出してしまうほど飲まされるメンタルトレーニングと比べれば、ダンボール詰めなんてこどもの遊びのようなものだと思う。
合格者決定についての得点配分が、この日発表になった(練習の30分前に発表)。小さな紙が体育館の片隅に貼られた。そこには、可愛らしさ10点、人形らしさ20点、校長先生の評価10点、努力度10点、書き取りテスト(クロッツ走の歴史、マスゲームの歴史などのテキストが配布され、そこから出題)50点、となっていた。テキストはこの日の練習終了後配布と書かれていた。合格者と全員の得点も練習が全部終了後に体育館に張り出すとも書かれていた。ただし、個々のジャンルの得点はわからず、全部で何点としか分からないようだった。
「ねえ、見たラーちゃん」
「もちろん、なのら。でも、努力度が10点なら、死にそうに頑張ってサーキットトレーニングで1位でゴールしても、脱落しない程度に走っても、9点しか差がないのら。もちろん、わざわざドベになる必要もないし、それなりに走っても葵や白木には、ハナもクボタも負けないんじゃないから。それなら、得点評価されるからって必死にならなくても、ある程度、脱落しないで走り切れば、数点しか差がつかないことになる。だから、やっぱり脱落しなければ、いいんだよ」
「そうだね、努力も認めるという話だったけれど、認めるのは僅かだね」
「それに、可愛らしさなら、ハナもクボタも、この部なら10点だし。きゃはは」
「うん、たしかに、うちらばかり可愛いと言われるけど…」
「それから、校長先生の評価というのがあるのにはバカウケなのら。そんなん、贔屓されてるクボタは最初から10点に決まってるよ。ハナは何点だか神しか知らないけれどね、きゃはは。だから、最後に総合得点だけが発表になるみたいだけど、そんなに酷いことにはならないと思うよ。人形らしさだけで評価されれば原と白木がぶっちぎりで合格だろうけれど、人形らしさは僅か20点なのら。片腹痛いほど得点配分が低いから、体力の弱い原や白木がどこまで総合点がとれるかは、見ものなのれすぅ」
「もう、ラーちゃん面白がりすぎだよ」
「まだ、みんな来てないから作戦を言うよ。よーく、聴いてね。まず、サーキットトレーニング1周でのタイムとか、蛙逆立ち姿の時間や、ブリッジ姿の時間など、それは脱落しない程度に頑張ることにしよう。もちろん余裕あるなら、わざわざ遅く走ったり、技の時間を短縮する必要もないけれどね。それから、校長先生に廊下で出会ったら、ハナもクボタも可愛らしくご挨拶しよう。まあ、媚びをうってると言われると、その通りなのら。人形らしさは全然気にしない。他の子に合わせて練習するだけ。毎日自主的に30分人形の練習しろと言われてるけど、見てるわけじゃないから、それは全然しないで、30分毎日テキストを丸暗記しようよ。他の子は部活後はヘトヘトだし、自主的に家とかでも人形練習してるからテキストを暗記する精神的余裕はないよ。だって、得点配分が50点なんだよ。なんじゃそりゃって、感じだけど、50点あるのとないでは雲泥の差だと思う。それに、さっきテキストを見たら、分厚くて難しそうだったよ。だから、一夜漬けでは良い得点は難しいのら。頑張るのはいやだけど、得点はほしいのら。だから、二人は今ハナの言った作戦でいくのら」
「うん、要するに、とにかく脱落せず自分なりに頑張り、テキストに毎日30分かけ、校長に愛想良くする、という作戦なんだね」
「そう、飲み込みは、はやい子なのら」
華子は≪なんじゃ、そりゃ≫と思うようなアホな作戦を立てることもあるけれど、今回の作戦は論理的だった。華子の作戦通りにやってみることにした。そもそも、人形化には苦手意識があるのだから、華子の作戦でいくしかないと思った。
とりあえず、華子作戦に便乗したので、思い切り精神的には楽になったと思う。みんな、なかなか人形化できないので、神経質になったり、落ち着かない子までいたのに、華子もぼくも全然気にせず、普通に練習することに努めただけだった。女の子同士のプライドというか見栄の張り合いの部分が女子同士であるので、なんとしても人形化したい気持ちは分かるけれど、努力の割には効果は薄いということも、何となく分かってきた。みな、あまり上達せず、最初よりましというレベルで足踏みしていた。また、サーキットトレーニングで運動場の遊具を使いながら一周してくるタイムレースでも、葵が必死に走り、ぼくよりも上の順位でゴールして勝ち誇っていたけれど、余裕で走っていたぼくには気にならなかった。痩せすぎで体力不足の子が多いのか、もともと足が速いのか、あまりムキにならずに4番目にゴールした。華子はぼくと同時にゴールしたけれど、微妙に遅れて入り5位だった。華子がぼくを勝たせたがるのは毎度のことだった。これなら、努力点がガタガタということもなさそうだった。暗記は30分だけ日課にしたけれど、部活で力をセーブしてるので元気があり、ヘトヘトでテキストを見たくないということはなかった。蛙逆立ちなども4~5人が脱落するまで続けて、それ以上は無理せずに終わりにした。そして、校長に会った時、軽く会釈する程度だったのに、「おはようございますぅ」とスカートを左右に広げてご挨拶をすることにした。華子がそうしていたので真似をした。そうしたら、校長先生はご機嫌になって「よしよし、可愛い子だ」と頭を撫でてくれたり、軽く抱き締めてくれたので、結構得点とは別にお得な気がした。そんな風に、脱落しないでついていくだけ、要領だけみたいな、そういう割り切り方をしたので、体力が温存され、人形練習にも心の余裕ができて、色々工夫できるようになった。必死に練習するより、むしろ上達の効率はいいかもしれない。最初から上達は僅かと割り切ってるので焦りもなく、淡々と練習してて、≪もうやだ、もう無理≫みたいなこともなかった。蛙逆立ちなどは全員一斉なので、麻衣や華子を上回った子は自慢そうだったけれど、そういう作戦なので気にしなかった。それに蛙逆立ちは得意だったので、普通程度の時間なら、あまり苦しくもなくて、一般練習の子たちが苦しんでるのを横目に余裕で蛙逆立ちをしているかんじだった。
さて、話を戻すが、この日の練習は最初は人形化練習で、鏡の前とか、友達と見せ合いながら、人形化することを目指した。華子はあまり上達する気もなさそうだった。その後、30分の箱詰めで、箱の上に置くためにブルマを脱ぎ箱に入った。密封され、この日は余裕があるので、体育館に隅に箱は置きっぱなしで移動されなかった。ぼくの入った箱の上に、ぼくのブルマが置いてあるのだが、ブルマを見ることで誰が入ってるのか分かるので、ブルマは便利だなと思った。この日は急に葵が副顧問に呼び出されたのだが、ブルマに名前が書かれてるので、どれが葵のダンボールかすぐに分かったようだった。ダンボールだけでは、どこに葵がいるのか神経衰弱状態になると思う。すぐに葵は箱から出されて、準備室に移動していた。後で話しを聞くと、どうやらカミソリで剃った後が目立つので、呼ばれたようだ。葵は剃ってもじきに毛が生えてくるということなので、毛なのか毛根なのかは分からないけれど、気になるレベルだったのだろう。剃った跡が目立つと今回のシリアスな発表には参加できないと言われ、この数日後、一般練習に戻されてしまっていた。それで、1人が脱落し、特別練習は8人(1人はあまりに人形化が上達しないので一般練習に戻された)になった。剃り跡くらいで脱落するなら、得点以前の問題なので、今のところ毛が生えてこない麻衣は圧倒的に有利だと思った。
この日の箱詰めの後は、人形化の応用で、様々なポーズで人形化するという練習だった。人形は関節部分が可動式のものが多く自由なポーズにできるものも多い、また当日の発表では、どんなポーズなのかは事前には分かっていないから、あらゆる想定されるポーズを練習しておく必要があると言われた。座って足を伸ばしマタを拡げるポーズには飽きてきていたので、この練習は変化があって面白かった。一般練習の子がブルマで練習してるのに、人形化練習は必ずブルマを脱がされるので、それは厳しいなと思うけれど、でも練習そのものは楽だった。最後の総合得点と合格者が発表されるまでには、あと10日もあった。もともと家では麻衣は宿題以外は勉強はせず、学校で記憶するようにしてるので、家で暗記するのは珍しかった。テキストは分厚く、文字が多く、誰も高得点は取れないような課題だと思った。この暗記テストは合格者発表の前日の部活中で、簡単に得点をくれて自信をつけるテストというよりは、解けるもんなら解いてみろと言わんばかりの細かな数字や細かな知識の試されるものだったが、毎日30分もかけていたので注釈やら、内容の細かな説明部分まで読んでいたので、案外簡単だった。華子も、いっぱい書けたと言っていた。でも、その一方、白木は「去年とテキストの内容が違い過ぎるよ」とぼやいていたし、どうせ簡単で〇×式だろうと軽く見てたらしい他の部員は本格的な記述式なので「全然、書けなかった」とぶつぶつ文句を言っていた。「そもそも、どうして人形発表なのに、こんな知識が必要なの?」とぼやいてる部員もいたけれど、実はこれは見物者から質問された時に最低限度は答えられないと困ると、依頼者から渡されたテキストだったようだ。どうりで50点もの配分になるわけだった。どうやら発表の依頼者は、人形らしさよりも、知識や外見を重視してるのかもしれないと思った。
この日の箱詰め後の最初のポーズは、マネキンのポーズとかで、両手両足を少し開いて立ってるだけだった。こんなのは誰がやっても似たようなもののはずなのに、やはり白木と原は人形に酷似して見えたし、他の子は立ってるだけと大差ないと思った。≪どこが違うんだろう?≫と、マネキンになりながら、白木や原を観察して考える余裕が、脱落しなければいいという華子の手抜き作戦のおかげであり、≪どうやら、表情に秘密があるようだな≫と思った。白木たちの表情をよく観察して真似れば、そこに人形化のヒントがありそうだな、と、思った。いくら精神的なものがあるにしても、体には差は生れにくく、やはり表情に差が出るのではないかと思ったのだ。人形化してるつもりの華子を見て、こんなの人形じゃないと思ったのも、やはり華子の表情を見て吹き出しそうになり、そう思ったのだった。全体を真似るのでなく、とりあえず顔を真似ることに集中してみようと思った。もちろん練習から脱落しない程度に集中してただけだけれど。確かに、白木や原の顔は人形の顔だなと思った。麻衣とは華子の顔とは、どこらへんが違うんだろうと、考えた。どこかにヒントがあるかもしれない。
そんなことを考えつつ練習してるうちに集合になり、整理運動をして部活は終了した。部活の最後にラジオ体操を簡略化したような5種類の運動をして、体にかけた無理を解きほぐした。それから半袖シャツを着た。そして部室でセーラー服に着替えた。
部活の人形化練習のうち1日だけは、ぼくの体調が悪い気がして「風邪をひいたかもしれない」とランボに言ったら、「それは困るな」と、「半袖シャツを着たままでいい」と言われて、ブルマと半袖の体操着姿で練習をした。そして、箱詰めの時と、人形化練習の時だけは、ブルマだけ脱いで、要するに半袖シャツ1枚で練習した。低学年のころ、こんな風に下半身だけ裸になって遊んでいたことがあったな、と思い出したりした。やはり、全部脱ぐよりは、半袖シャツだけでも着ている方が遥かに温かく、結局葛根湯とか風邪薬を飲んだおかげもあるけれど、風邪らしい症状から、そのまま回復することができた。もし半袖シャツが許可されなかったら、風邪が酷くなってしまった可能性もあったので、顧問は優しいなあと思った。
98、結果発表日
練習も何度も何度もやっていると、みんな疲労感のようなものがあり元気のない女子が多かったが、華子の怠惰な作戦にのり『練習に、落ちこぼれずについていく』という作戦のおかげで、毎日人形化練習をしていても余裕があり、そのことから、「ふん、少し運動神経からって余裕でいいよね、あの二人」などと、陰口もあったようだ。葵がわざわざ陰口を教えてくれるので、そうなんだと陰口の内容はよく分かった。一度に全部白木や原を真似ないで1つづつ順番に真似ていったおかげで、徐々に鏡の中の自分が人形に似てきたような気がしていた。これならば、みんなの平均よりは上手になったと思う。でも、みんな合格者に選ばれたいのか、得点上位者になりたいのか知らないけれどサーキットトレーニングや器械運動(蛙逆立ちなど)で、滅茶苦茶に頑張ってるみたいで、華子や麻衣よりも短時間で走ったり、苦しい姿勢を長く頑張ったりした子は、≪勝った、勝った!≫と嬉しそうに麻衣や華子を見てるので、≪はいはい、良かったね≫と、作戦で全力でしてないだけなので、何のことやらという気分だった。まあ勝つにこしたことはないが、余り苦しい思いをしてまで勝ったって僅かな得点配分なのでは仕方ないと思う。でも、勝つと充実感というか、得点で上回った嬉しさがあるみたいで、ノートに得点を記入してる顧問を見て、多くの得点を稼げた子は嬉しそうだった。白木や原は人形化は上手なんだけれど、体力不足なのか、頑張ってる割には、それ以外では冴えない得点のようだった。
いよいよ、結果発表になり、汗と涙の結晶の結果発表にしては、ずいぶん小さな紙(B5)が、セロテープ2枚で、体育館の壁のぼくの顔くらいの高さに張り出されただけだった。
「なにこれ」
「うそうそ」と、サーキットトレーニングの結果などで上回っていた子たちの、ぼやいている声が聞こえた。
「どれどれ」と華子と2人で見に行った。すると、結果を見て驚いた。なんと、到底信じられないことなのだが(不合格と確信していたので、さばさばと結果を見にいったので…)、1位は麻衣で84点だった。これには驚いてしまい言葉を失った。そうしたら、余裕で見てるように見えたらしく、「うわー、勝って当然だから、余裕なんだ…」とか言われてしまった。2位が華子で79点だった。3位が原で53点、4位以下は50点に達してさえおらず、白木は48点で4位だった。
この日の練習後に顧問から聞いた話だが、華子も麻衣もテストが、ほぼ全問正解だったようだ。やはり毎日暗記したのが良かったみたいだ。他の子に訊くと、大抵の子が普通の勉強や宿題もあるし、人形化自主練もしてたし、テキストの暗記は一夜漬けだったようだ。ここに落とし穴があると、毎日暗記したぼくには良く分かった。確かにテキストはページは少ない。でも、小さな活字でぎっしりと印刷されているのだ。ぼくも最初は≪この程度なら一夜漬けで十分記憶できそうだな≫と思った。ところが、いざ暗記してみると、30分で進んだのは僅か2ページくらいだった。ぎっしりと、スポーツに関する細かな内容が印刷されていて、大まかな概要だけ憶えれば大丈夫というような簡単な内容ではなかったのだ。そもそも文字数が多いうえに、無駄なく暗記すべき内容が散りばめられていて、一夜漬けでは得点を取れないと分かった。パッとテキストを見た印象と、実際に暗記する大変さに、大きな違いがあったのだ。「白木は去年は簡単だったのにね。今年は難しいよ」と言ってたし、他の女子は一夜漬けと言っていたので、それで高得点は難しいと思う。ランボによるとテストの得点は、酷い子は数点、頑張った子でも10点台だったということだ。ということは、もし、テストが無かったら、華子もぼくも合格はできず、合格者は人形化の得意な白木と原だったということなのだろう。
「わわわ、うちら、ぶっちぎりの高得点なのら」と華子は無邪気に喜んでいた。まさに作戦勝ちで、他の女子は悔しがっていたが、もうどうなるものでもなかった。それから、校長の得点は、ぼくにだけ10点で、華子には5点で、他の子は0点だったと教えてくれた。これでは、ぼくだけ高得点になる訳だと思った。
「得点の右側に合格と書いてあるのら」
「あ、ほんとだ。ラーちゃんとぼくが合格で、原が補欠と書いてある。補欠って、どういう意味なんだろうね」
「さあ、でも他の子は不合格と書いてあるから、きっと合格の一種なのら」
華子と補欠の意味を話していたら、ミーティングで説明があり、「合格者が体調が悪いとか、何かの理由で発表できない場合は補欠が合格者のかわりに発表する」ということだった。でも発表日に合格者が何かの理由でいない場合は発表に連れていくのだけど、いる場合は発表に連れていくことはなく、発表場所で待機することはないので、合格者が発表できる限り、扱いは不合格者と同じだという説明だった。
この日は別メニューの練習はなく、一般の練習だけで、体操部全員が同じ練習だった。久しぶりにマスゲームの練習をしたら、他の子が一糸乱れぬ動きをしてるので驚いた。麻衣は他の子に合わせるだけでも大変だった。
練習終了後に、華子と話しながら部室まで歩いた。
「意外だったね。どうして合格できたのか、びっくりだね」
「それは簡単なのら。この合格はテストがすべてだったんだよ。他は余り大差ないということだよ」
「それは分かってるんだけど、人形化できる原が補欠で、白木が不合格。人形化できないぼくが合格って、奇妙な気分だよね」
「まあ、それはそうなのら。世の中理不尽なものなのだ。結局、運が良かったんだよ。暗記はしたけれど、でも、こんな奇妙な得点配分だったんだし、校長が点を10点持っていたりとか、これは運としかいいようがないよ。もちろん、他の子も事前に得点配分は知ってたんだから、運を引き寄せられなかったということかもしれないけれど」
「そうだね。でも、合格不可能と思っていただけに、驚きの結果だったよ。これもラーちゃんのおかげだよ」
「きゃはは。だから、無理と思っても、最後まで分からないということだよ」
「うん、良い作戦だったんだね」
ところが、周囲の女子は「勝って当然という顔してるね」とか「運動神経いいから余裕だね」とか言ってるものだから、≪そんなつもりでないのに…≫と思った。白木まで「あーあ、テストが散々だったからな。わたしってバカなのかな…」とぼやいていた。
早い時点で脱落していた葵まで「あ。またクボタが勝った。また伝説作るんだ」とか言っていた。でも、ぼくは「良かったな、合格だぞ」とランボに抱っこしてもらったので、ご機嫌で、葵の言葉も気にならなかった。
部室でセーラー服に着替えた。やっと、人形化特訓の決着が付いたと思う。しかも、人形化とは余り関係ないことで決着がついたのだから、毎日真面目に家で練習した子は不運だったと思う。
「結局、人形化特訓は遊びみたいな特訓だったのら。大変なのはダンボール詰めにされるくらいで、他は座ってるだけだったね」
「そうだね。楽だったね」
「きゃはは」
「でもさ、ぼくたちがダンボール詰めにされてる時って、本当にダンボールの上にブルマが置いてあったのかな?」
「ららら、たまにクボタって難しい質問するね。それって、冷蔵庫のドアが閉まってる時に明かりが消えてるのかな、という質問と同じで答えは難しいのれすぅ。ドアが開いてる時は点灯してるけど、ドアが閉まってる時は見えないから確認しようがないのだ」
「それもそうか。つまりシュレーディンガーの猫と同じってことだね」
「あらら、ペルシャ猫の一種?」
「もう、いいや。からーす、何故鳴くのー」と歌い始めた時に、烏が頭上でカアと鳴いたので、華子と爆笑してしまった。
手をパタパタさせながら、カアカアと言いながら、歩いた。そうしたら、通行人が「可愛い子たちね」と言っていた。
変な部に入ってしまったので、小学校卒業から半年以上たってるのに、全然小学生気分が抜けきっていなかった。というか、まだこてこての小学生みたいな気分だった。合格したので、いよいよ発表内容を練習とかするのかな、と思った。実際の発表は休み明けの月曜日だった。とりあえず、明日は休みなので、のんびり遊ぼうと思った。
99、発表終了後
どういう訳か冗談みたいに、華子の作戦通りにしていたら、人形発表にぼくと華子が合格してしまい、原は補欠になり、白木や他の候補は落選した。今日は休日で、数日後に週末になり、その後の月曜日に人形発表をさせられることになる。もう決定してしまったので、いまさら辞退したら、かえって原や白木はむっとするだろうし、「よく頑張った、本番を期待してるぞ」などと、ランボやジャイアン(副顧問のことを、そう言ってる。図体が大きいから)に言われてしまい、「はい」と返事してしまったので、もういまさら「人形になりきれてないし、自信ないんで、辞退しますぅ」と言うわけにもいかず、
頑張るしかなさそうだった。結局、白木のように気味悪いほど人形そっくりになるのは無理だったが、そこそこ言われてみれば人形っぽく見えるなというレベルだったと思う。やはり人間は努力とか精神主義がもてはやされるけれど、才能によるところが大きいと思う。補欠の原にすら、人形らしさでは勝てるかどうか微妙なところだ。でも、まあ、選ばれてしまったものは仕方ない。大昔、ショパンコンクールで、アシュケナージという天才ピアニストがいるのに、審査員の勘違いでおバカにも優勝してしまったダン・タイソンは、こんな気持ちだったのかもしれないな、などと思った。そんなことを朝ベッドの中でぼんやりと考えていたら、アニメが見たくなり、ガサゴソと起きだしてキューティーハニーを見ていた。
休日は誰も遊びに来ないので、主にアニメや映画を見たり、鏡の前で人形の練習をしたり、ロシアのヴィルトゥオーゾの演奏を大袈裟なステレオで聴いたりして過ごした。人形の練習中に思ったのだけど、人形をしてる麻衣は、やはり白木ほど人形らしくないけれど、可愛らしさでは麻衣の方がずっと上だと思った。自画自賛してるのではなく、普段の麻衣よりも、人形になってる麻衣の方が可愛らしく見えるのだ。本当に可愛い少女の人形というかんじで、普段のあまのじゃくな麻衣よりも可愛く見えた、ということだ。これなら、多少人形らしさで劣っていても、総合的には見てる人は喜びそうな気がした。そんな風に少し自信を回復できたのは、鏡の魔法によるものだった。自信なくやるよりは、どうせやるなら自信はあるにこしたことはないと思う。やりたい事をして過ごしたので、少しナイーブになっていたのが元気回復した。
休みが終わり学校へ行くと、「また、発表に出るんだって」と既にクラスでは全員に話題が知れ渡ってしまっていた。普通の裸教育されてない女子生徒は、ただの1度も人前で裸にされていないのに、裸教育の生徒だけは脱がされ過ぎの気がした。そりゃあ、小6時代みたいに、朝から晩まで毎日裸の学校生活と比べると裸にされる時間は圧倒的に短いのは分かるのだが、普通の生徒との比較では全然違う中1生活だと思う。まだ他の部員は大きな発表くらいしか見物人の前では脱いでいないけれど、ぼくは小さな発表まで参加させられて、まるで人に裸を見せるために生まれてきたこどものような気分だ。特に一度裸でマスゲームした運動会以降はどんどん脱がされるかんじで、普通の女子生徒なら赤面してしまいそうだと思う。まだ、部活でメンタルトレーニングとか洗脳されてるから恥ずかしさに負けずに頑張れるので、普通の女子だと嫌で泣いてしまうかもしれないと思う。裸になることに慣れてくることはあるけれど、やはり基本的な恥ずかしさみたいなものは人間の本能なので、健康なうちは食欲がなくならないようなもので、健康なぼくから恥ずかしさもなくなりそうもなく、また月曜日の発表ではどきどきするのかなと思った。月曜日は午後からだけだが、火曜日は1日じゅう発表のようだ。朝食を食べると腹が膨らんで見栄えが悪いので、その日は発表終了後まで食事抜きと言われていた。ただ、軽い空腹感なら、1週間の断食であるまいし、クロッツ走の前も食事抜きとかで慣れてるし、難なく我慢できそうだなと思った。
授業が終了し体育館へ行った。もう合格したので、一般の練習に戻されるのか、それとも合格者だけ別練習にされるのかは分からなかった。体育館には部活開始時間にジャイアンが来て、ミーティングで「きょうから合格者は一般の練習はない。だから、秘密特訓があるか、秘密特訓のない場合は帰宅していい。きょうは秘密特訓があるので、ミーティング終了後、華子は生徒指導室に、麻衣はここの準備室に移動するように。合格者は半袖シャツは脱ぐ必要はないから、そのまま移動するように。それから補欠の者は一般の練習になる。半袖シャツを脱いで、普通に部活に参加するように」と言われた。
「はい」と返事して、≪へえ、どうやら明日は部活は休みになりそうだな。明後日は学校は休みだし、きょうだけ頑張れば、明日の放課後はのんびりできそうだな…≫と思った。
ミーティングは、「だいたいマスゲームでは女子全員の動きがシンクロするようになってきた。しかし、技をする時はバラバラになるようだ。特にボールを持って技をする時はバラバラな動きが目立つようだ。簡単な技なんだから、他の子をよく見て、そろえることを体で覚えなさい」というような内容を言ってるだけだった。動きがバラバラだと、マスゲームの意味がないから、しないのと同じだと力説していた。
ミーティングが終わると、華子は指導室へ行くのに体育館を出ていった。ぼくは一度、体育館の外に出て、下駄箱の所で半袖シャツを着てから、ブルマに半袖に赤白帽子に素足という姿で、体育館の舞台の奥方向にある準備室に移動した。一度体育館に入ってから、体育館の舞台横の小さな扉から準備室に入ることができた。外からでも入れるのだが、ざら板とかがなく、足が汚れるので外を経由するのは利口な方法ではなかった。体育館内を移動していると、ジャイアンが女子部員に腹筋をさせていて、「16」「17」…というジャイアンの声がして、声に合わせて腹筋をしてる部員の姿が見えた。≪うわー、大変そうだな。合格して良かったな≫と思った。
準備室に入ると誰もおらず、仕方ないので幼児みたいに背筋を伸ばして正座をして先生の来るのを待った。5分くらいした時に、ランボが入ってきて、バッグからゴソゴソと何かを取り出していた。それから、麻衣の所へ来た。
「久保田、きょうはマンツーマンで秘密特訓をする。誰も見てる人がいないので、照れたり、恥ずかしがったりせずに真剣に頑張るように」と言われた。
「はーい」と正座をしたまま、片手を高く上げて返事をした。一人で返事する場合は片手を高く上げて返事するように言われていた。裸でない普通の体操着姿なので、何をさせられても裸ほどは恥ずかしくなさそうだと思った。
「まず、ラジオ体操第1を一人でするように」
「はーい」と立ち上がり、ラジオ体操を始めた。音楽なしなので難しいけれど運動会前にもラジオ体操を練習していたので、なんとか順番を憶えていた。普通の体操着なので照れもなく、先生の前で「いっち、に」と言いながら、十分に体の曲げ伸ばしができたと思う。
「よし、よくできた。じゃあ、今、なるべくエッチで幼稚っぽい踊りを、自分で発明して踊ってみろ」と言われた。
「はーい」と返事はしたが、こういう自分で考えた踊りというのが、こどもには一番羞恥心の起きる踊りなのは間違いなかった。自分の本性というか、素の幼稚っぽさを見られてしまいそうで、未成熟なこどもには恥ずかしいんだと思う。≪うわあ、恥ずかしいなあ≫と思ったが、先生の前で、バタバタとマタを開いたり閉じたりして踊ったり、「この頃はやりの女の子、お尻の小さな女の子、こっを向いてよハニー」と大好きなキューティーハニーの歌を歌いながら幼稚に踊ってみせたり、ストリップダンスの真似をして先生の前で四つん這いになって、お尻を持ち上げたりとか、必死に恥ずかしさに耐えて思いつくままに頑張ったので、目が涙でいっぱいになり、涙で前が見えないくらいだった。延々と5分くらい、先生の前で、させられたので、おしっこちびりそうなくらい恥ずかしいのに、止めるわけにもいかず、キュティハニーは2回も歌ってしまった。これでは、幼稚なアニメを見て喜んでる子とバレバレだったし、キューティーハニーのパンティーも部活でパンツ1枚にされた時に先生に見られて赤面してるだけに、とっさに思い浮かんだのがキューティーハニーというアニメだったことにも、自分で自分に赤面してしまった。
「よし、かっこいいぞ」と踊り終わると、頭を撫でられたので、涙がポロポロと床に落ちた。パンツは見られないからと、こっそりと大好きなキューティーハニーの幼児用パンツをはいていったら、その日は部活で身体検査と体力測定があり、全員が自分のパンティー1枚になり体育館に集合と言われて、ひどく赤面して恥ずかしくて俯きながら運動した記憶が残っている。それだけに、≪女子中生にもなって、また、キューティーハニーかよ…≫と思われたかもしれないなと、少し落ち込んだけれど、踊ってしまったんだから仕方ないと思う。
その後に、やっと、人形の訓練をした。
「人前で人形姿の発表をするのだから、当然、人前で動かずに人形になりきってるということだ。人形姿というのは、何があっても動かないで我慢するということだ。分かるな
「はーい」と返事した。そりゃ、人形姿なら、じっとしてるのが本当だと思う。
「発表中に見物客に本物の人形だと勘違いされて触られることもあると思う。それでも、動いてはダメだ。動くのは負け犬だ。だから、じっとしてる練習をしておく。まず、そこの壁に凭れ掛かり人形の基本の姿勢になりなさい」と言われた。
壁に背中を凭れ掛かって座り、足を左右に開いた。1分くらいは、その人形姿を観察されて「おっ、可愛いなあ」と言われた。
それから、先生に体に触れられることに耐えて頑張った。半袖シャツの下から両手を入れられて、胸に触られた。少しだけ膨らんでる胸をつかまれて、思わず「ヤーン」と声を出してしまい、「声を出すやつがいるか。どういう人形だ」と叱られて、ビンタされてしまった。右の頬が痛みで熱くなりジンジン痺れるかんじだった。もちろん、半袖シャツの下は裸教育なので何も着ておらず、スポーツブラも部室に置いてあるので、再度ぼくの胸を鷲掴みにされて、それから、半袖シャツの中に手を入れられて、体全体を触られた。恥ずかしさよりも、とにかく、くすぐったいので我慢するのが大変だった。5分くらいは半袖シャツを中を触られたと思う。赤白帽子の赤色の方にさせられていたので、白い帽子のツバを見ながら、くすぐったいのに我慢してるかんじで、恥ずかしいからか下方向は見ないで、上の方向ばかりを見ていたと思う。恥ずかしい秘密特訓だけど、実際に発表中にこういうハプニングもあると思うので、一度練習しておく意味はあると思った。それに本番は体操着姿でなく素っ裸なのだから、この程度の恥ずかしさには耐えられないと、本番に耐えられるわけがないと思った。
5分後くらいからは、今度はブルマの中に手を入れられて、今度は「ヤーン」と言わないぞと我慢した。最初はブルマの名札の辺りを触っていて、ブルマの中だけに赤面だった。それから、性器を何度も撫でられたが、性器の中身にまでは触られなかった。そのままブルマに入れた手を、ぼくのマタを通って後ろ側に押し込まれた。肛門に触られたけれど、≪負けないぞ≫と動かないで人形を貫いた。もちろん、肛門に指を入れられたりとか、指浣腸みたいなことはされなかったけれど、肛門のシワとかに触られたので、惨めな子と小学生にも笑われそうだなと思った。エッチな気持ちでないにしても、ぼくの肛門のシワにまで触るのだから、それなりに触って気持ちいいのかな、とかエッチなことも考えてしまった。≪やだ、おちゃんちゃんが濡れちゃうよ≫と心配したけれど、最後までブルマは脱がされることはなかった。
肛門の後はぼくの顔の頬を何度も撫でられて、その後に、頭を撫でられて秘密特訓は終了した。
「この特訓の内容は誰にも話してはダメだよ」と言われた。もちろん、こんな恥ずかしいことを人に話させるわけなく、学校の誰にも言わなかった。
「よし、よく頑張った。帰っていい」と言われて、「ありがとうございました!」と大きな声で言って、準備室から出た。部室で着替えていると、華子も来て、「くすぐったいのに、あ、言ったらダメなのラ」と、特訓の内容を言いかけて、華子も口止めされたらしく別の話題を始めた。
セーラー服に着替えた後、帰宅した。華子と馬鹿話をして、げらげら笑いながら帰ったが、体操着姿とはいえ、変な部分に触られてエッチだったなと興奮していたと思う。夕暮れの烏の鳴き声がして、分かれ道で別れた。
100、人形発表
月曜日になり午後から裸で発表なので落ち着かない感じで授業を受けて、給食後に過去の経験からトイレに行ってから、職員室へ向かった。給食を食べ終えたら職員室のジャイアンの所へ行くようにという指示を朝聞いてたので、華子は先に職員室にいるかもしれないと思った。職員室へ着いたら、ジャイアンも華子もいないので≪あれ?≫と思った。そうしたら、校長がにこにこして、「華子たちなら保健室へ行ったよ。きょうも可愛いなあ」とぼくの頭を撫でて誉めてくれた。「ありがとうございます。行ってみます」と保健室へ行くと、華子が「クボタ、あたし、腹痛で行けそうもないのれすぅ。今、正露丸もらって飲んだけど、ちょっと発表は無理なのでしたぁ」とか言ってた。「というわけだ、隣のクラスの補欠の原をここへ呼んできてくれ」とジャイアンに言われた。「はい」と返事して、≪うわ、ラーのやつ、家で朝、古いパンでも食べたのかな?≫と思いながら、原の教室へ入ると原は給食を食べ終わったところだった。華子なら困った時にぼくを助けてくれるけれど、原だと逆に妹みたいな心細い雰囲気で、大船から小船に乗り換えたような気分だった。原と保健室に戻ると、華子は狸寝入りをしていた。華子は実際に午後は教室でも眠がっているので、これ幸いと狸化したのかもしれない。午後から学校早引きで出発するのに、ちょっとラーのやつは体調管理がルーズすぎるよと、ぼくは思った。
「華子は今日は無理だな。でも原も同等の練習やダンボール詰めなどの訓練もされてるから大丈夫だ。せっかく補欠になれたんだから、発表なしなのも可哀想だし、ちょうど良かったな。せっかく小さな小さなダンボールに詰められて耐えたのに、意味ないもんな」と副顧問のジャイアンが言ってるので、≪やはり、原と行くんだな≫と最後の期待も打ち砕かれた気分だった。
「さあ、そろそろ出発の時間だな」とジャイアンが言うので、全裸になろうとスカートを脱いだら、「おいおい、小発表会じゃないんだから脱ぐなよ。あっちに服の収納スペースがあるんだから」と言われたので、≪なあんだ≫と思った。今日は脱がされるのでパンティーが見えてしまう場合もあると思って、幼稚っぽいアニメパンツ(キューティーハニー)を穿きたいのを我慢して、中学生らしい純白パンツで登校したので、安心してスカートを脱いで、下半身は中学生らしいパンツになったのに、再びスカートを穿くことになってしまった。これまでの経験から勝手に全裸移動か、パンツ1枚で移動と思い込んでいたので、移動と言われて反射的にスカートを脱いでしまったのが失敗だった。華子は狸寝入りを続けていた。
「センセ、わたしなんかで発表大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だ。原は人形そっくりだったぞ」とジャイアンが答えると、華子がうなずいていたので、可笑しくて仕方なかった。ようやく原は納得したらしく、セーラー服のままジャイアンの車まで移動した。ジャイアンは体が大きいからかセドリックという日産の大きめのピカピカした車に乗っていて、白い色褪せたカローラに窮屈そうに乗っているランボとは大違いだった。ランボはこの前「カローラのドアをぶつけて交換してもらったけれど、ドアごと交換したのに、びっくりするほど安かった」と言っていたので、移動はとにかく安ければいいんだろう。それからみると、随分とセドリックはゴージャスだし、車を大事にしてるのかワックスがよく効いていた。ぼくはトランクに積まれるのだろうと思って、トランクの前に立っていたら、ジャイアンは窓から顔を出して「早く、後部座席に座れ」と言われてしまった。以前、運動会前に体操着姿(赤白帽子なしのブルマに半袖姿だった)での発表に連れていかれたことがあって、その時は体操着姿でカローラの後部トランクに入れられて会場まで移動したので、今日もトランクに積まれて移動と勘違いしてしまったのだ。その時はトランクから出されて、こどもたちの前で曲に合わせて踊っただけだったけれど、帰りもトランクだった。「物扱いのメンタルトレーニング」というもので、物扱いされることで強い子に育つからという説明だった。実際にけっこう揺れたり頭をぶつけたりするので強い子になると思う。
今日はVIP待遇で後部座席に原と二人で座った。
「きょうは、しっかり、頑張れよ」と、お菓子を出されたので、原と共にポリポリとハッピーターンを食べながら景色を見ていた。ランボは傭兵だったという噂がジョークに思えるような堅実な運転なのに、ジャイアンはクラクションこそ鳴らなさないもののやくざのベンツのような荒っぽい走りだったが、サスがいいのと、後部座席がいいのか、そんなに乗りごこちは悪くなく、景色に集中できた。結局、体操着は学校のカバンの中で、今日はセーラー服で手ぶらでの移動だった。菓子を食べ終わると、今度はお茶をコンビニの袋から出してくれて、≪なんか待遇いいなあ…≫と思いながら、景色を見ながら緑茶を飲んだ。缶入りで割と冷えていた。ランボはカローラで未完成交響曲を聴いていたのに(トランクで聞こえた)、ジャイアンは阿部真央とかいうわけのわからない音楽を聴いていて、≪もとは小学教師だったから、こんな変な曲が好きなのかな≫と思った。小発表会とは反対の方角で、延々と1時間近く走り続けたので、どこら辺を走ってるのかは謎だったが、でも景色を見てるのは楽しいのでドライブ気分だった。移動時間が長いので疲れないように待遇を良くしたのだろうなと思った。
到着したのは小さな町から数百メートルほど坂道を登った場所にある洋風の建物で、体育館の半分くらいの大きさだった。車を少し離れた大きな駐車場に停めたときに≪多分、これは人形館で、ぼくはここに素っ裸で生きた人形として飾られるということかな…≫と思った。でも車から降りて、徒歩で敷地の舗装道路を20メートルほど歩いて建物に近づくと、そこは人形館ではなく、ごく普通の貸し出しホールのようだった。
主催者らしい人が出迎えてくれて、「あ、この子たちが、裸になってくれるこどもだね」とランボと話していた。入り口は広くて、廊下を曲がるとかなりの広さのホールで、そこに「人間博覧会~人体とスポーツ」と入り口付近に説明のオブジェが置かれていた。
「まず、ちびっこたちは、ここの展示を一通り見て、どういうものが飾られているか、見ておいてくださいね」
「はい」
返事をすると、ジャイアンと主催者は打ち合わせをするためか、廊下の突き当りの小部屋へ移動してしまったようだ。原とぼくがホールに残されたので、二人でセーラー服姿で展示を見ていると、けっこうグロテスクなものも展示されていて不気味だった。人体の模型とか、体の内部の様子とか、いろいろあって、「健康な子供の体」と書かれた2人くらい乗れそうな小さな金属の台の上に何の展示もなかったので、≪あ、ここにぼくたちが飾られるんだな…≫と分かった。隣に大きなスポーツの歴史の写真の貼られたパネルがあるので、通路を順路どおりに歩いてきて、突然見える場所だった。パネルを通過すると小さな展示物しかなく、遠くからでも台の上は見えそうだった。
一周してみて一番ショッキングなのは、入り口付近の全裸の少女の標本で、どうやらこの標本が入手できたから展示会をする気になったのだろうなと思った。台の上に仰向きに乗せられていたが、ガラスケースの中なので手で触れることはできなかった。オチンチンが付いていないので少女と一目瞭然だったが、少年みたいで、全裸でなければ性別がやや分かりにくいと思う。顔は可愛いけれど、死体では話もできないし仕方ないと思った。でも、この標本の他は、ありふれた模型とか写真パネルだけで、パッとした展示物は何もないので、スポーツの歴史とかこどもの人体に興味のある人なら楽しいだろうけれど、そうでないと退屈な印象を残すので、出口付近に麻衣たちが飾られるということなのだろうなと思った。5分くらいで一周したが、まだジャイアンたちが戻ってこないので、再度、少女の標本を見に行った。死体なのは不気味だけど、顔は可愛いし、全裸少女だし、自分と年齢は同じくらいに見えるし、エッチで見応えはあるなあと思った。体の輪郭は小学5年生くらいなかんじで、病死して標本にされたのか、それとも法輪功に加入してて生きたまま標本にされた子なのかは不明だけど、素っ裸なので実際のサイズより、かなり小さく見えた。女の子なのに、全部丸見えにされて飾られ続けるなんて、エッチだなと、少しだけ興奮してしまった。
しばらくして、ジャイアンたちが戻ってきた。
「ここの建物の外や駐車場の警備員は3人で来て、1人づつ交代して警備してるんだけど、きみたちは一応人形としての展示なので、途中で動いたりするのは都合が悪いから展示中は交代はなしになる。ずうっと展示されっぱなしになるのだから、先にトイレへ行っておきなさい」
「はい」と、二人で入り口付近にある綺麗なトイレへ行き、体内のものを全部出してからホールに戻った。すると、やはりセーラー服姿のまま「健康な子供の体」と書かれた紙の貼られた台の所へ連れていかれた。台は50㎝くらいの高さしかなく、直接床に飾られるよりはマシかなという程度だった。まるで炬燵の上に少女2人が飾られるのと大差ないと思った。台は便利なことに、底部付近のツマミを回転させると開閉式になっていた。開閉の練習をさせられたが、ぼくにはツマミは重いが頑張れば動かないほどでもなく、力をこめるとガチャという金庫の開くような音がして無事にドアが開いた。原は、ぼくより苦戦していたが20秒くらいでドアを開けることができた。
「ここに着てるものを、恥ずかしいだろうけれど、全部脱いで入れてください」
「はい」
時間をかけて待たせると悪いので、サッとセーラー服を脱いで、そのまま放り込んだ。シャツを脱いで、パンツも脱いだ。セーラー服の上にパンツを原とほぼ同時に置いた。純白の中学生らしいパンツだったので、大人なんだぞと、少し自慢だった。すると、主催者が扉を閉めてくれた。閉める時には回転させる必要はなく、単に閉めればガチャという音がして自動で閉まる。閉めるのは簡単だが、開けるのが少し大変そうだった。
「これからは、この台をロッカー代わりにして自由に使ってください。今日は1週間ある博覧会の3日目で、3日目午後と4日目が〔実物大の全裸少女人形展示中!〕と広告されているので、きみたちの出番というわけだ。人形に見えるように頑張ってほしいけれど、もしも人形でないとバレてしまっても、ただのチビッコが裸になってるだけの話なので何も問題なく、公園の池でこどもが素っ裸になってるのと同じことなんだから、気にすることなく人形姿を続けてほしいです。ばれないのが、もちろん理想だけど、ばれたから、だから問題があるわけでもなく、そのために、きみたちのような幼く幼稚っぽい雰囲気の子に来ていただいたのだから、自信を持って人形姿を続けてください」
「はい」と、≪なるほどー≫と納得しながら返事をした。≪確かに全裸だと幼児みたいに見えるし、今日も性器は赤面なくらい小さく縮み上がってるし、しかも台の上だと身長の比較ができないので心理的に非常に小さく見えるし、仮に人形でないとバレても、幼児が裸になって展示会のお手伝いしてるようなものにしか見えないから問題ないんだな。でも人形に見えるように期待に応えないとダメだな…≫と思った。
「どちらが、人形のモノマネは上手かな?」
「原です」と麻衣たちに訊かれたので、すぐに麻衣が答えた。原は黙って
「それなら、原さんに立った姿の人形をしてもらう。ここに白いバレーボールがあるから、それを持って台に上がってください」
「はいっ」と歯切れよく原が返事して、全裸で台に上がった。
「バレーボールは利き手で持って」
「はいっ」と原は右手でバレーボールを持った。
「こっちの子を前に置くから、もう少し後ろに立ってくださいね。いいね、そこで、左手はきおつけをして、両足は少しだけ開いて。いいね。きょうは〔部活でバレーボールする健康な子供たちの姿〕という設定なので、運動スポーツ人形だから、もう少し堂々とした姿勢で立ってくれるかな」
「はいっ」と、原が少し性器を突き出すようなかんじで立った。なんかオチンチンは着いてないけれど、原が人形化すると、ミケランジェロの丸見えの彫刻みたいな風で相当エッチに見えた。うわ、これって恥ずかしい展示だな、と思った。≪うわ、やばいな、原は本物の人形に見えてるよ。まずいな≫と、内心思った。でも、バレていいと言われてるので、まあ大丈夫かと思って、ぼくも台に上がった。
「こっちの子は何も持たないで展示します。まず正座をしてみてくれるかな。あ、いいね。それで、手は頭の後ろ。こどもの脇の下を見てもらうからね。バンザイがいいけれど、時間が長いから疲れるだろうから。頭の後ろの手は、どうしても辛くなったら、見てる人のいない時に体の後ろで手を組んでいてもいいからね。そして、正座したまま、右足だけ右方向へ動かしてくださいね。あ、足は伸ばさなくて、曲げたまま右方向に。足首から膝までは両足が平行になるように、そうそう。これ、むかしミホというヌードモデルの中学生のしてたポーズで全国の本屋さんでビデオが販売されてたから、可愛いポーズだなと憶えてたんだが、実際にやってもらうと、ドッキリするポーズだね。もっとも、ビデオでは脇の下は見せてないので、こっちの方がセクシーポーズかもしれないな。きょうは、ミホに負けない可愛らしさを発散させてください」
「はい」と返事したけれど、ミホという名前は当然チンプンカンプンで、それに勝てと言われても意味不明だった。
「後ろの子は人形らしさを、前の子は可愛らしさを発散して、見てる人を興奮させドッキリさせてください」
「はいっ」と二人で同時に返事をした。多少苦しいポーズだが、小さな小さなダンボール箱に生きたまま詰められているよりは明らかに楽そうだった。苦しいポーズでも耐えられるようにダンボール詰めにされてたのだな、練習にはそれぞれ意味があるのだなと分かった。
「じゃあ、そのポーズで閉館する5時半まで頑張ってください」
「はいっ」
「お客はいつもガラガラだけど、たまに団体客とか来ると混雑することもある程度です。今日は小学生が遠足で寄るくらいで、団体客はそれだけです」と言われて、≪えっ、小学生の団体に見られるの?≫と流石に心臓がどきどきした。
あっけなく主催者もジャイアンも行ってしまい、多くの展示物の中に二人だけが残された。この広いホールに二人だけなので、物寂しいような雰囲気もした。≪模型と一緒に素っ裸で飾られてて、まだぼくたちって幼稚っぽいのかな≫と思いながら、誰もいないホールでじっとしていた。ガラガラというよりも、誰もいないのには驚いた。展示物が欲しいという主催者と、裸教育で裸を人前で露出させて強い子に育てたいという副顧問の思惑が一致して展示されてるんだろうけれど、見物者ゼロでは発表にならないよ、と、さすがに思った。あまり大勢に見られるのも恥ずかしいけれど、誰もいないのも拍子抜けすると思った。原は健気にも人形になりきってるようで、背後から少女の気配はしなかった。ぼくは誰も見る人もいないのに、赤面なポーズを続けていた。正座から片足だけ開いてたら、まるで「ぼくのワレメちゃんを見てください」と言ってるようなものだと思った。原は奇特に人形になりきって何も考えずに頑張ってるのだろうけれど、ぼくは人のいない時まで人形化してるのは嫌だったので、言われた通りのポーズでじっとしているだけだった。でも、この赤面ポーズを自分より年下の小学生に見られるのは(そして多分笑われるのは)惨めな子の気がしたけれど、恥ずかしさに耐えないと強い子に成長できないぞ、と、思った。5分くらいは実際に誰も来なかったが、その後、入り口付近で入場料を払ってる人がいるのが分かった。静かなので、気配で何となく分かっただけなのだが。≪たったワンコインで全裸を見られてしまうんだな…≫と、思った。
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